Kocco’s blog

イギリス生活、美術教師、ロックダウン、妊娠

子供達の陶芸クラスで “警察呼ぶよ”

 

 イギリスの子育ては住み込みでベビーシッターを雇うオウペアーというシステムがあることは以前の投稿でも書き込んだ。イギリスではベビーシッターをナニーと呼ぶことが多くナニーは住み込みの場合やパートのように時間を決められて母親に代わり子供のお世話をする。

 

 

子供向けの放課後陶芸教室を担当していた時の話。Primary school が始まる年齢の5歳から10歳までの子供たちを対象のクラスでロクロを教えたり手びねりといって手で形を成形していったりとどろんこになりながら奮闘していた。

 

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クラスにはジョンとキャリーという双子の兄妹も参加していた。ジョンはとっても好奇心旺盛でわんぱくな男の子。毎週違う造形のテーマに興味深々で突っ込んでくる。“なんでこれを作るの〜?”など根本的な問いに始まり一度本人がその気になれば余っている粘土もかき集めて好きな形に造形していく。男の子は車を運転しているような気分にでもなれるからか、ロクロを好むことが多くジョンも幾度となく作業中の手を止めてロクロをせがんできたりした。

 

彼の双子の片割れであるキャシーには発達障害がある。ジョン以上に己の意欲を強く主張するキャリーはしばしジョンも呆れクラス中に席を遠ざけ距離を取ろうとするるほどであった。

 

キャリーとの出会いは誰よりも強烈なものだった。

 

“初めまして、コッコです。私は日本出身です。みんなと陶芸でいろいろなモノづくりに挑戦して行くのが楽しみです。”

自己紹介を始めるとキャリーは私の目を見て興味深そうな表情を見せ私にこう訪ねた。

 

“日本出身なの?もしかして大地震があったところ??”

私は“そうだよ”というとキャリーは

“天災って素晴らしい!たくさんの人を飲み込んでみんな死んでしまうの、それってすごく楽しいことじゃない??”

 

私は言葉が出なかった。キャリーが子供であることとの障害のことはわかっているつもりだったが発する言葉の破壊力に私は愕然としてしまい怒りまで込み上げてきた。

“どういうことを言っているかわかる?”と言うと彼女は

“あはははは”とまるで心が空っぽのおとぎ話に出てくる妖怪のような笑みを浮かべた。

 

ジョンとキャリーの双子にはナニーがついていて、男性で筋肉質のナニーさんは少し心強い存在でもあった。しかし“レセプションにいるから何かあったらすぐ呼んでください”と言ってくれた矢先に彼はスタジオを出て、るんるんるんとコーヒーを買いにでも言ってしまったようだが、、。

 

時にスタジオは少しばかり手に掛かる子供から休憩したいと思う親御さん、ナニーさんから見たら子供のお世話中の息抜きができる場所といった要素が強くまるで駆け込み寺のようにも思えた。

 

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そんなある日キャリーはかんしゃくを起こし、手に負えないほど教室中を荒らし始めた。ジョンも“キャリー!やめて!”と叫んで双子の片割れに呆れる様子。彼らだけではなく他にも数名の子供たちが参加していたこともあり私はいよいよナニーさんを呼ぶ時が来た!とばかりにレセプションで携帯をいじって休憩中の彼を呼んだ。ナニーさんが部屋に入ってきた途端キャリーはしゅんとして少し弱くなったようなそぶりを見せた。強烈な言動が持ち味と言ったらおかしいが、キャリーの態度の変化は少し心配になるものだった。

ナニーさんはゴンゴンゴンと音を立てるかのように彼女に近づいてぐいっと肩を抑えた。そして

 

“これ以上喚くと警察を呼ぶからね”と彼女に告げた。

 

その言葉を聞いた瞬間彼女はどんどん弱り“きゃ〜!!”と音を立てながら目は涙でいっぱいに溢れた。

私はその時何かが間違っていると思った。子供を封じ込めるような大人の言動そのものが彼女を苦しめ症状を悪化させているのではないかと。それ以来私はキャリーへの見方が代わった気がする。

 

このことをオーナーに相談すると学習障害の長男を持つ彼女はそれぞれの身体の特徴をつかむことをアドバイスしてくれた。

 

“コッコは彼女の耳にペースメーカーが付いていることに気づいた?きっと彼女にとって耳が遠いこともあって自分の世界にこもった状態で周りの人と生活しているのだと思う”

 

人それぞれ見え方は違う。気になり興味を持つポイントも違う。一つ一つの言動がその人からのサイン。キャリーとの特別な出会いはその人の特徴をつかんで共存する、ということを教えてくれた忘れられない出来事となった。

 

どんな人も思わぬ形で周りの人を傷つけてしまうこともある。起きてしまったことに関して一方的に責めるのではなく、たとえ折ってしまった傷でも相手を受け入れてどのように次に進んでいけるか。教える立場にたつことで関わる子供達からたくさんのことを学んだ。

 

彼女が最後のクラスでくれたバラの作品は今でも大切に飾ってある。

 

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