Kocco’s blog

イギリス生活、美術教師、ロックダウン、妊娠

導かれているような彼女の人生の出来事

スタジオでの住み込み生活をはじめて毎日の一瞬一瞬が自分のストーリーの一場面のように感じることが多くなった。いいことも悪いことも起きるけれどそれは良し悪しを私個人のフィルターで測定しているだけ。世の中はいろんな人の起こしたアクションの元にストーリーが生まれ人が集まり離れて続いていく。たまたま私の目の前に入ってくる景色や出来事、出会う人々のストーリーに自分のストーリーも加わり影響し合っていく。

 

私は陶芸クラスのチームで働いていたが隣にはペイント、ドローイング、プリント等を行うことができるアートスタジオが。アートクラスの講師の一人でもあるナイリは生きるアートのような存在だ。

 

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アゼルバイジャン出身の彼女。とってもくりっとした瞳が特徴でニカっと笑う彼女の笑顔は誰をも明るくしてしまう。彼女はいつも自分のストーリーを生きていると感じさせる女性だった。カフェラテを片手にカラフルなコーディネイトで登場。身につける帽子やジャケット、パンツも一つ一つが色鮮やかででも隣り合う色によって色はこんなに変わって見えるのか、と気づかされるくらい独特のカラーコンビネーションが得意な彼女のスタイルと内から溢れ出る陽気な性格はスタジオでもとても目立っていた。

 

“カフェで隣だった人がなぜかテイクアウトの餃子をひたすら食べてたのよ!おかげでジャケットが餃子くさくってしょうがないの!!”毎回ちょっとしたドジ話を挟む。するとみんなその場の緊張がほぐれるのか“私もこんなことがあって!”など日々のくだらない話を交換しあって笑い合う。大げさに悲劇のヒロインを演じるくらいの方がよっぽど素直でいられるのかもしれない。

 

彼女はイギリスはロンドンに引っ越す前にアゼルバイジャンで一人の男性と結婚した。24歳で第一子を身ごもりすぐに第二子も誕生。二児の母となった。子供中心の生活になって大忙しながら幸せに包まれていたある日、旦那さんを交通事故で亡くしてしまう。

 

そんな心が痛くなる彼女の過去についてはじめて聞いたのは実はスタジオのオーナー、オリエルさんから。でもある日彼女本人の口からその出来事を聞くことがあったのだが、その時の彼女の言葉はとても衝撃的だった。

 

“実は当時何かが物足りないと思っていたの。彼の死はその矢先の出来事だった。決して願っていたことことではないし、私の人生はシングルマザーに様変わり、親の手助けを借りて死に物狂いで働いて二人の子供を育て上げなくてはいけなくなったから。でも起こるべくしてこの出来事は私に起きたの。私にはどこかでこれが予想ができていた気がするの。自分でも確かに覚えているんだけれど日記に、毎日が幸せだけれど何か物足りない気がする、、って書き込んだのよ。自分はどこかでこの出来事が起こることを予測して覚悟していたみたいに。振り返ると不思議な感覚だけど、人生って時々本当に不思議なことが起こるの。”

 

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彼女の言葉は情熱的で全てが彼女の感覚と実体験を通して紡がれるからすっと聞き手を引き込んでいく。

 

“彼の死がなかったら私は次のパートナーに出会うこともなかっただろうな、一時期は私レズビアンのパートナーがいてね、彼女の影響でロンドンに来たの。二人で子育てもしたり、、今となっては別れることになってから色々もめた苦い思い出になっちゃったんだけど。何が言いたいかって、願っても無いことが起きて悲劇の幕開けと思った時があったとしても人は次のストーリーに導かれてるってこと。私は今こうしてここで生活できていることに大変だと思うけど満足しているし、やっと子供達も大きくなって手が離れてきたから自分の制作に打ち込むことができてこの街に生きることがとっても楽しい!”

 

彼女はペインターとして活動、成功を収め始めている。二点の絵が6000ポンドで落札、彼女にとって大きなステップとなった。彼女のストーリーを聞いた後、自分のストーリーもまるまるっとそのまま進むどの方向にも受け止めて生きたくなるような自由さに包まれたような気がした。

 

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